東アジアの現代演劇
このコーナーでは、京都から東アジアとの相互理解を深めるため、毎回、様々な方に日々の取り組みやその活動にこめた想いについてコラムをご寄稿いただいています。
最終回は、KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭のプログラムディレクターである、橋本裕介さんです。
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私がプログラムディレクターを務めるKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2017では、「東アジア文化都市2017 京都」の舞台芸術部門として、当フェスティバルとしては初めて中国、韓国のアーティストを招聘した。日韓の演劇交流は既に先人たちが様々な形で行ってきたこと、中国は国土が広く多様性を極めておりリサーチをするにも切り口を定めることが難しかったことから、身近な存在でありながら、逆にこれまで紹介することを躊躇っていた。
今回非常に良いチャンスをいただき、中国からはスン・シャオシン、韓国からはパク・ミンヒの2名を招聘し、代表作を上演することが出来た。最終的にこの二人の作品をプログラムすることにしたのは、「いま・ここ」という時間と空間に紐付けられた舞台芸術の形式に対する問いと、扱う内容がリンクする形で作品が結実しているものだったからだ。
日本以上に若者のネット依存が進む中国では、検閲の問題と相まってネットが「コピー文化」に拍車をかけている。そんなリアルとバーチャルの境界があいまいになっていく文化状況を描くことで、「身体」「本物」「主体」といった現前性を担保するための要素を溶かしていくような、つまり演劇を演劇足らしめる要素を否定するような演劇を生み出していたことに驚嘆した。
スン・シャオシン『Here Is the Message You Asked For… Don’t Tell Anyone Else ;-)』
2017 京都芸術劇場 春秋座 撮影:松見拓也
様式化され、額縁の中に納められてしまった韓国の伝統唱和に再び<声>の主たる身体を取り戻すため、「歌曲(ガゴク)失格:部屋5 ↻」は観客に小さな部屋を移動させながら、それぞれの小空間でガゴクのパフォーマンスを間近に鑑賞させた。観客の身体の移動が、ガゴクの楽曲としての構成を体現し、観客の体感の中に<声>の身体性を取り戻させる趣向は、韓国における伝統と現代の距離を浮き彫りにするものだった。
この2作だけで「東アジアの現代演劇」を語ることは出来ないが、これらを通じて現代の彼の地における歴史・空間認識の一端は垣間見えたのではないかと意義を感じている。
パク・ミンヒ『歌曲(ガゴク)失格:部屋5 ↻』2017
京都芸術センター 撮影:井上嘉和
『東アジア文化都市2017 京都』に期待する、東アジアの相互理解について
まずは、「東アジア文化都市2017 京都」無事の閉幕おめでとうございます。2年近くにわたる関係各位の入念な準備に感謝申し上げます。それを長く大変な道のりだったと考えることも出来るでしょうが、私は日中韓で行われた準備のプロセスそのものが東アジア文化都市の意義でもあったのではないかと考えるのです。
相互理解とはいわゆる「了解」ということとは違うと思います。分かろうとし続けること、そうしたいと思い続けられる関係性のことを相互理解というのではないかと考えます。
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2017では、山口情報芸術センター[YCAM]と共に、「RAM CAMP in Kyoto 2017」という日中韓のダンサーとプログラマーのための交流プロジェクトを行いました。テクノロジーを媒介にして、約1週間合宿するこのプロジェクトは何か明確な作品や結果を目指すものではなく、今後の協働の可能性を探るものであり、これを機に参加者の間で対話が継続され、人々の行き来がより活発になれば、今回の事業の意義は小さくないと信じています。
山口情報芸術センター[YCAM]『RAM CAMP in Kyoto 2017』
ロームシアター京都 撮影:Song Gi Kim
※写真提供はすべてKYOTO EXPERIMENT事務局
Member
橋本裕介
KYOTO EXPERIMENT/ロームシアター京都 プログラムディレクター